デザイン思考の聖地、スタンフォードd.schoolに行ってきました

Stanford d.school Sherry Bus
Activity Report

デザイン思考の聖地、
スタンフォードd.schoolに行ってきました

Hasso Plattner Institute of Design at Stanford / 代表理事 訪問レポート

活動報告 d.school Stanford 2026年3月

先週もスタンフォード大学のd.school(Hasso Plattner Institute of Design)を訪問してきました。

デザイン思考に関わる人なら、一度は「いつか行ってみたい」と思う場所ではないでしょうか。2004年にIDEO創業者のDavid Kelleyが設立したこの研究教育機関は、デザイン思考を体系化し世界に広めた、いわば「聖地」です。私自身、一般社団法人 日本デザイン思考協会(J-DTA)の代表理事として、デザイン思考を日本の企業や教育現場に届ける活動をしています。訪れるたびに新しい発見があるこの場所の魅力を、今回も写真とともにレポートします。

あの赤いバスが、すべての始まりだった

d.schoolのSherry Bus前での記念写真
📍 d.school入口のシンボル、Sherry Bus(1952年製Chevrolet)の前で

入口に入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、この真っ赤なヴィンテージバス——Sherry Bus(1952年製シボレー)です。

このバスはDavid Kelleyが自身のコレクションから持ち込んだもので、今やd.schoolのシンボルとして施設内に恒久展示されています。「どんな場所でも、学びと実験の場になる」——そのd.schoolのDNAが、この一台のバスに凝縮されているように感じます。

J-DTAでも、会議室でも工場の一角でも、どんな場所でもワークショップを実施することがあります。「場所を言い訳にしない」という姿勢は、このバスを見るたびに腹落ちさせてもらっています。

d.school とは? スタンフォード大学のHasso Plattner Institute of Designの通称。2004年にDavid Kelleyが設立し、私の前職でもある世界的企業向けソフトウェア会社SAPの創業者、Hasso Plattnerの資金提供により実現しました。David KelleyはIDEO(アイディオ)——「人間中心設計」を企業に実装するグローバルなデザインコンサルティングファーム——の創業者でもあります。d.schoolは「デザイン思考」を体験型教育として世界に広めた発信源で、学部・学科横断型の教育機関。学位を授与しないのが特徴です。

Make Space — 動く家具が生む、動くアイデア

Make Spaceの表紙にも使われた床に書かれた'e'の文字
📍 d.schoolが刊行した書籍『Make Space』の表紙にも登場する、床に描かれた「e」の文字

廊下を歩いていて目につくのが、この「e」の文字です。実はこれ、d.schoolが2010年に刊行した書籍『Make Space』(Scott Doorley & Scott Witthoft著)の表紙にも使われているモチーフ。「空間のデザインがコラボレーションと創造性に直接影響する」というd.schoolの空間哲学を体系化した書籍で、その象徴として今も施設内に存在しています。

赤いソファでくつろぐ男性
📍 キャスター付きの赤いソファ。どこにでも移動できる「対話の場」
キャスター付きの可動式机
📍 キャスター付きワークテーブル。数秒でレイアウトが変わる

d.schoolで毎回「これは面白い!」となるのが、この家具たちです。ソファも、机も、ホワイトボードも——ほぼすべての家具にキャスター(車輪)がついています。全部動く!

ペアワーク、チームワーク、プレゼン、個人作業——活動のモードが変わるたびに、学生たちが自ら家具を動かして空間を組み替えるんです。空間が固定されていると、思考も固定されてしまう。そういうことですよね。

「考えるより、まず作れ」— プロトタイピングの文化

d.schoolが繰り返し強調するのは、「Bias toward Action(まず動け)」というマインドセットです。アイデアが生まれたら、頭の中で考え続けるのではなく、すぐ紙を切り、段ボールを貼り、形にしてみる。完成度なんて最初から求めない。大事なのは「試すこと」そのものです。

J-DTAのワークショップでも、プロトタイピングのステップは参加者が最も驚くパートのひとつです。「え、こんな粗くていいの?」という反応が毎回出るのですが、まさにそれがd.school流の核心。あの「e」を見るたびに、私たちのやり方は正しいんだと確信させてもらっています。

EXTREMEプログラム — デザイン思考が、命を救った

EXTREMEプログラムの成果物展示ケース
📍 「Design for Extreme Affordability」の成果物展示。左は低コスト太陽光ランタン、中央はMiracleFeet Brace、右下は新生児保温袋Embrace

施設内にはデザイン思考の実践例として有名な成果物を展示しているショーケースがあります。「Design for Extreme Affordability(d.Extreme)」プログラムの成果物展示です。d.schoolと経営大学院(GSB)の共同授業で生まれたプロダクトたちで、テーマはひとつ——「世界の最貧困層が抱える課題を、低コストのデザインで解決する」。これが、すごかった。

🍼 Embrace — 赤ちゃんの命を守る、25ドルの保温袋

展示ケース右下にあった青い袋が、Embrace(エンブレイス)の乳幼児用保温袋です。途上国の農村部では、未熟児や低出生体重児が体温を維持できずに命を落とすケースが後を絶ちません。病院は遠く、3,000ドル以上する保育器なんてとても買えない。そこでd.schoolの学生チームが開発したのが、電力不要のパラフィン(保温性の高い蝋燭の蝋のようなもの)を使い、6時間以上体温を保つこの保温袋。コストは25ドル以下。現在21カ国以上に展開され、何万人もの命を救っています。

大事なのは、このチームが「解決策を考えること」から始めなかったことです。まず現地に行き、お母さんたちの話を聞き、医療従事者と時間を過ごし、「本当の問題は何か」を徹底的に探った。その課題定義があってはじめて、このプロダクトが生まれました。まさにデザイン思考の真骨頂です。

🦶 MiracleFeet Brace — 内反足を治す、20ドルの装具

「MiracleFeet Brace(ミラクルフィートブレイス)」は、内反足(先天的に足が内側に曲がって生まれる疾患)を非手術で治療する装具です。途上国では100万人以上が未治療のまま放置され、歩行障害や社会的スティグマを抱えて生きています。d.schoolの学生チームは現地調査・共感インタビューを重ね、20ドル以下で製造できる装具を開発。現在21カ国でサービスが展開されています。「共感から始める」という言葉の意味を、このプロダクトが体現しています。

💡 ランタン — 電気のない村を照らす、太陽光照明

ショーケース左側には、ソーラー充電式の低コストランタンも並んでいました。電力インフラのない途上国では、煤と火災リスクを伴う灯油ランタンが今も主要な照明です。d.schoolチームはフィールドリサーチを経て、現地で生産・流通できる太陽光ランタンを設計。過去12年間で1億5千万人以上の生活を変えたとされています。

これがデザイン思考の「証明」 3つのプロダクトに共通するのは、「解決策から入らなかった」こと。現地に行き、人と会い、表面に見える問題の奥にある「本当の課題」を発見する。その課題定義があってはじめて、本当に使われるソリューションが生まれる。J-DTAのワークショップでも、インサイトを得ることの重要性を繰り返し伝えていますが、このショーケースはその大切さを、誰よりも雄弁に語っていました。

建築そのものが哲学 — むき出しの石壁と吹き抜けの意味

d.schoolのメインホール(吹き抜け空間)
📍 メインホールを2階から見下ろす。石壁、吹き抜け、赤いスチールフェンス——「未完成」がデザインされている

2階から見渡したメインホールに、思わず「かっこいい…」と声が出ました。昔の外壁をそのまま活かしたむき出しの石造りの壁、吹き抜けの天井、赤いスチールフェンス。歴史ある素材と現代的な構造が共存する、独特の空気感があります。

これは偶然ではなく、意図されたデザインです。「完成されすぎた空間は、人を消費者にしてしまう。余白のある空間こそが、人を創り手にする」——d.schoolのそういうビリーフが、建物の隅々にまで宿っています。折りたたみ椅子が並ぶホールでは、人々が思い思いに動き、立ち話をし、ホワイトボードに書きながら議論している。廊下そのものが、展示でもあり議論の場でもある。

「どこでも、誰とでも、今すぐ始められる」。d.schoolを歩くたびに、その言葉が体に染み込んできます。

この訪問から持ち帰った5つのこと

  • 空間は思想を体現する。家具・建築・レイアウトすべてがコラボレーションの哲学の表れ
  • プロトタイプは「完成品への道」ではなく「学ぶための道具」。粗くていい、早く作る
  • 良いソリューションは良い課題定義から生まれる。解決策より先に、インサイトを
  • デザイン思考は「手法」ではなく「マインドセット」。答えを出す前に、問いを疑う
  • d.schoolのメソッドは世界中で命を救っている。これは理論ではなく、実践の積み重ね

J-DTAでは、このd.schoolで生まれた「Gift Giving / Wallet Project」をCreative Commonsライセンスのもとで日本に紹介し、企業・教育機関向けのワークショップとして提供しています。「知識として知る」ではなく、「体感して使えるようになる」——その場を日本中に作り続けることが私たちの使命だと、訪問のたびに確信を新たにしています。

デザイン思考に興味はあるけれど、まだ体験したことがない方。ぜひ一度、J-DTAの入門ワークショップに来てみてください。d.schoolで生まれたメソッドを、日本語で、あなたのそばで体験できます。

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