デザイン思考とは?初心者にもわかりやすく5つのプロセスと活用法を解説
はじめに
「デザイン思考」という言葉を聞いたことはあるけれど、具体的に何を指すのかよくわからない——そんな方は多いのではないでしょうか。
「デザイン」と聞くと、色や形、ビジュアルの美しさを連想するかもしれません。しかし、デザイン思考における「デザイン」は、視覚的なデザインではなく「設計」を意味します。ユーザーが本当に必要としていることを深く理解し、そこから創造的な解決策を「設計」していく——それがデザイン思考の本質です。
この記事では、一般社団法人日本デザイン思考協会が、デザイン思考の基本概念から5つのプロセス、ビジネスや教育での活用法まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
デザイン思考の定義
デザイン思考(Design Thinking)とは、デザイナーが日常的に用いる思考プロセスを、ビジネスや社会の課題解決に応用した問題解決アプローチです。
スタンフォード大学のd.school(Hasso Plattner Institute of Design)で体系化され、Apple、Google、IBM、パナソニック、トヨタなど、世界中の先進企業がイノベーションの原動力として採用しています。
デザイン思考の最大の特徴は「人間中心」であることです。市場データや技術的な可能性からではなく、ユーザーの体験や感情に深く共感することから始まります。ユーザー自身も気づいていない潜在的なニーズを発見し、そこから革新的なソリューションを生み出していきます。
なぜ今デザイン思考が注目されているのか
VUCA時代の到来
現代はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代と言われています。技術革新のスピードは加速し、市場環境は予測困難になっています。
従来の「仮説検証型」アプローチ——市場調査をして仮説を立て、計画通りに製品を開発する方法——は、変化の激しい時代には通用しにくくなっています。
デザイン思考は、正解が見えない複雑な課題に対して、ユーザーの声を起点に素早く試行錯誤を繰り返すアプローチです。不確実な時代だからこそ、その価値が高まっています。
モノからコトへの価値転換
消費者は製品やサービスそのものの品質だけでなく、それを通じた体験全体に価値を見出すようになりました。この「モノからコトへ」の転換において、ユーザー体験を起点に価値を設計するデザイン思考は、まさに時代に合った思考法といえます。
経済産業省も推進
経済産業省は2018年に「デザイン経営」宣言を発表し、デザインを企業の競争力の源泉と位置づけました。日本政府もデザイン思考の重要性を認識し、その普及を後押ししています。
デザイン思考の5つのプロセス
デザイン思考は以下の5つのプロセスで構成されています。重要なのは、これらは一直線に進むものではなく、必要に応じて行ったり来たりしながら反復的に進めるという点です。
1. 共感(Empathize)
デザイン思考の出発点は、ユーザーへの深い共感です。
ユーザーの行動を観察し、インタビューを通じて、ユーザーが何を感じ、何に困っているのかを理解します。ここでの「共感」は、単なる同情ではありません。自分の先入観を脇に置き、相手の視点から世界を見ようとする能動的な行為です。
具体的な手法としては、ユーザーインタビュー、行動観察(エスノグラフィ)、ユーザーと同じ体験をする没入調査などがあります。
2. 問題定義(Define)
共感のプロセスで得た情報を整理し、解決すべき本質的な課題を明確にします。
ここで重要なのは、表面的な問題ではなく、その背後にある根本的な課題を見つけることです。例えば、「顧客から問い合わせが多い」という表面的な問題の背後には、「サービスの説明がわかりにくい」「ユーザーが期待する機能と実際の機能にギャップがある」といった本質的な課題が隠れているかもしれません。
この段階では「着眼点(Point of View:POV)」を設定し、チーム全体で取り組むべき課題の方向性を共有します。
3. アイデア創出(Ideate)
定義した課題に対して、できるだけ多くのアイデアを自由に発想します。
この段階で大切なのは「質より量」です。ノーベル賞を二度受賞したライナス・ポーリングも「最良のアイデアを得る方法は、たくさんのアイデアを出すこと」と述べています。
デザイン思考では「Yes, and」のマインドセット——他者のアイデアを否定せず、それに付け加える姿勢——を重視します。突飛に思えるアイデアも歓迎し、そこから予想もしなかった革新的な解決策が生まれることがあります。
ブレインストーミング、マインドマップ、SCAMPER法などの手法を活用します。
4. プロトタイプ(Prototype)
アイデアを素早く簡易的な形にします。
プロトタイプとは完成品ではなく、アイデアを目に見える形にした試作品です。紙やダンボール、付箋など身近な素材で十分です。シリコンバレーのプロトタイプ文化では「失敗を恐れず、早く試し、学ぶ」ことが重視されます。
完璧を目指す必要はありません。重要なのは、「このアイデアは機能するか?」を検証できる最小限のものを、短時間で作ることです。
5. テスト(Test)
プロトタイプを実際のユーザーに試してもらい、フィードバックを収集します。
ここで得られるフィードバックは、アイデアを改善するための貴重な情報です。ユーザーの反応が予想と異なっていた場合、それは失敗ではなく学びです。テスト結果に基づいて、プロトタイプを改善したり、場合によっては問題定義の段階まで戻って考え直したりします。
この反復的なプロセスを通じて、本当にユーザーに求められる解決策へと近づいていきます。
デザイン思考と他の思考法との違い
デザイン思考 vs ロジカルシンキング
ロジカルシンキングは既知の情報を論理的に分析し最適解を導く思考法で、正解がある問題に強みを発揮します。一方、デザイン思考はまだ明確になっていない課題を発見し、創造的に解決する思考法で、正解が不明確な問題に適しています。
両者は対立するものではなく、補完関係にあります。デザイン思考で革新的なアイデアを生み出し、ロジカルシンキングでそのアイデアを精緻化・実行するという組み合わせが効果的です。
デザイン思考 vs アート思考
デザイン思考はユーザー(他者)の視点から課題を発見し解決策を創造するのに対し、アート思考は自分自身の感性や価値観を起点に新しい価値を創造します。
デザイン思考は既存の製品やサービスの改善・革新に、アート思考はまだ世の中に存在しない全く新しいコンセプトの創造に向いています。目的に応じて使い分けることが重要です。
デザイン思考の活用事例
ビジネスでの活用
世界的にデザイン思考で成功を収めた企業は数多くあります。
Appleはユーザー体験を中心に据えた製品設計で知られ、iPodやiPhoneといった革新的な製品を生み出しました。Airbnbはサービス設計にデザイン思考を活用し、創業初期の危機を乗り越えて宿泊業界を変革しました。IBMはデザイン思考を全社に導入し、1,000人以上のデザイナーを雇用してビジネスプロセス全体を変革しています。
日本でも、パナソニック、トヨタ、NTTドコモ、日立など多くの企業がデザイン思考を導入し、新規事業開発や組織変革に活用しています。
教育での活用
デザイン思考は教育分野でも大きな注目を集めています。
文部科学省の学習指導要領では「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」が重視されており、生徒が自ら問いを立て、課題を発見し、解決策を考える力が求められています。デザイン思考のプロセスは、まさにこうした探究的な学びと親和性が高いのです。
一般社団法人日本デザイン思考協会は、さいたま市教育委員会教育研究所と連携し、さいたま市の教職員6,000人を対象としたデザイン思考研修を実施。最終的には市内の全生徒10万人にデザイン思考を届けることを目指しています。民間企業も参加する官民連携モデルは、日本初の公立教育に根ざしたデザイン思考トレーニングプログラムとして注目されています。
自治体・行政での活用
住民目線での政策立案やサービス改善にも、デザイン思考は活用されています。住民の潜在的なニーズを理解し、本当に求められるサービスを共創するアプローチは、行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進とも相性が良いとされています。
デザイン思考を学ぶには
デザイン思考は本を読むだけでは身につきません。実際に手を動かし、チームで対話し、プロトタイプを作る体験を通じて初めて深く理解できるものです。
書籍で学ぶ
まずは基本的な概念を理解するために、以下の書籍がおすすめです。
- 『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン著:IDEO創業者による、デザイン思考の全体像を理解するための必読書
- 『Harvard Business Review デザイン思考の教科書』:多角的な視点からデザイン思考の価値を解説
- 『デザイン思考 2.0 人生と仕事を変える「発想術」』松本勝著:日本での適用を踏まえた、わかりやすい入門書
- 『実践 スタンフォード式デザイン思考』ジャスパー・ウ著:d.schoolの実践ガイド、体験後の参考書として最適
ワークショップで体験する
日本デザイン思考協会では、初めての方向けの2時間入門コース(無償)から、実践的な1〜2日間のマスターワークショップ、ファシリテーター育成プログラムまで、段階的に学べるコースを用意しています。
スタンフォード大学d.schoolで体系化されたメソッドに基づき、シリコンバレー現地駐在メンバーとの連携を通じて、最新の実践知を反映したプログラムを提供しています。
まとめ
デザイン思考は、ユーザーへの共感を起点に、創造的な問題解決を行うアプローチです。
- 共感から始まり、問題定義 → アイデア創出 → プロトタイプ → テストの5つのプロセスを反復的に進める
- 正解が見えない複雑な課題に対して特に有効
- ビジネス、教育、行政など幅広い分野で活用されている
- デザイナーだけでなく、誰もが学び活用できる普遍的な方法論
変化が激しく先が読めない時代だからこそ、ユーザーの声に耳を傾け、素早く試行錯誤を重ねるデザイン思考の価値は、ますます高まっています。
デザイン思考に興味をお持ちの方は、まずは当協会の無償入門コース(2時間)で体験してみてください。
一般社団法人日本デザイン思考協会は、スタンフォード大学d.schoolで体系化されたデザイン思考の普及と実践を推進しています。企業研修、学校教育、ファシリテーター育成など、デザイン思考に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。

