デザイン思考ワークショップの進め方|準備から実施まで完全ガイド

はじめに

「デザイン思考のワークショップを社内で開催したいけれど、どう進めればいいかわからない」——そんな声を、私たち日本デザイン思考協会にもよくいただきます。

デザイン思考ワークショップは、正しく設計・運営すれば、チームの創造性を引き出し、これまで見えなかった課題やアイデアを生み出す強力な場になります。一方で、準備不足のまま実施すると「付箋を貼っただけで終わった」「盛り上がったけど何も残らなかった」という残念な結果になりがちです。

この記事では、スタンフォード大学d.schoolのメソッドに基づき、多くの企業・自治体・教育機関でワークショップを実施してきた日本デザイン思考協会が、成果の出るデザイン思考ワークショップの進め方を、準備から実施、フォローアップまで解説します。

デザイン思考ワークショップとは

デザイン思考ワークショップとは、デザイン思考の5つのプロセス(共感・問題定義・アイデア創出・プロトタイプ・テスト)を、チームで実践的に体験する場です。

通常の会議やブレインストーミングとの大きな違いは、「ユーザーへの共感」からスタートすることです。自分たちの都合や技術的な制約ではなく、ユーザーが本当に求めていることを起点に発想することで、従来の延長線上にはない革新的なアイデアが生まれます。

ワークショップの時間は目的によって異なりますが、2時間の入門体験から2日間の本格的な実践まで、さまざまな形式があります。

ワークショップ前の準備

ワークショップの成否は、実は当日の進行よりも事前の準備で大きく左右されます。

目的とゴールの明確化

最初に決めるべきは「このワークショップで何を達成したいのか」です。目的が曖昧なまま開催すると、参加者も何に向かって取り組めばよいかわからず、成果がぼやけてしまいます。

目的の例としては、「新規サービスのコンセプトを3つ以上創出する」「既存サービスの顧客体験における課題を特定する」「部門横断チームの共創マインドを醸成する」などが挙げられます。

テーマと問いの設定

ワークショップで取り組む「問い(How Might We)」を事前に設計します。「どうすれば(How Might We)〇〇できるだろうか?」という形式の問いは、デザイン思考ワークショップの出発点となります。

良い問いは、広すぎず狭すぎず、参加者が自分ごととして考えられるものです。例えば「どうすれば売上を上げられるか」は広すぎますし、「このボタンの色を何色にすべきか」は狭すぎます。「どうすれば初めて来店した顧客が、迷わず目的の商品にたどり着けるだろうか」のように、具体的でありながら創造の余地がある問いが理想です。

参加者の選定

デザイン思考ワークショップでは、多様な視点を持つメンバーが集まることが重要です。同じ部署のメンバーだけでなく、営業、開発、デザイン、カスタマーサポート、経営企画など、異なる専門性や顧客接点を持つメンバーを混ぜることで、より豊かなアイデアが生まれます。

1チームの理想的な人数は4〜6名です。少なすぎると多様性が不足し、多すぎると全員が発言しにくくなります。

環境と道具の準備

デザイン思考ワークショップでは、通常の会議室とは異なる環境が求められます。壁に模造紙を貼れるスペース、自由に動き回れる広さ、立って作業できるテーブルがあると理想的です。

必要な道具としては、付箋(複数色)、太めのマーカーペン、模造紙、A4用紙、テープ、タイマー、そしてプロトタイプ用の工作材料(段ボール、紙コップ、モール、レゴブロックなど)を用意しましょう。

ワークショップの進め方:5つのステップ

ステップ1:共感(Empathize)— 30〜60分

ワークショップの最初のステップは、ユーザーへの共感です。実際のユーザーや顧客にインタビューを行い、その人が何を感じ、何に困り、何を望んでいるのかを深く理解します。

ワークショップ内で実施する場合は、参加者同士でペアになり、テーマに関する体験をインタビューし合う方法が効果的です。インタビューでは「なぜ?」を繰り返し、表面的な回答の奥にある本質的なニーズや感情を掘り下げます。

事前にユーザーインタビューの動画や調査データを用意しておき、ワークショップ内で共有する方法もあります。

ファシリテーターのポイントとしては、参加者に「聞く」と「解決策を提案する」は違うことを強調してください。この段階では解決策を考えず、ひたすらユーザーを理解することに集中します。

ステップ2:問題定義(Define)— 20〜40分

共感ステップで得られたインサイトを整理し、本当に解決すべき課題を定義します。

共感マップやカスタマージャーニーマップを使って、ユーザーの体験を可視化し、チームで共有します。その上で「この人は、〇〇なので、△△を必要としている。なぜなら□□だから」という形式で、ユーザーのニーズを一文にまとめます(Point of View文)。

ここで定義した課題が的確であるほど、後のステップで生まれるアイデアの質が高まります。安易に「わかりやすい課題」に飛びつかず、ユーザーの真のニーズは何かをチームで議論する時間を十分に取りましょう。

ステップ3:アイデア創出(Ideate)— 30〜45分

定義した課題に対して、できるだけ多くのアイデアを発想します。

ブレインストーミングの基本ルールを最初に共有してください。「質より量」「他人のアイデアに乗っかる」「批判しない」「突飛なアイデアを歓迎する」の4つです。

1人1枚の付箋に1つのアイデアを書き、声に出しながら壁に貼っていきます。目標は1チームで最低30個以上のアイデアを出すことです。

アイデアが出そろったら、グルーピングして類似のアイデアをまとめ、投票やマトリクス(実現可能性×インパクト)を使って、プロトタイプに進めるアイデアを絞り込みます。

ステップ4:プロトタイプ(Prototype)— 30〜45分

選んだアイデアを、素早く形にします。プロトタイプといっても、完成品を作る必要はありません。紙や段ボール、付箋、レゴブロックなど、手近な材料を使って、アイデアの核となる体験や機能を表現します。

プロトタイプの形式は目的に応じて選びます。物理的な製品であれば段ボールや粘土で模型を作り、サービスであればストーリーボード(4コマ漫画のような絵)で体験の流れを描きます。アプリやWebサービスであれば、紙にスクリーンを描いてペーパープロトタイプを作成します。

ファシリテーターは「きれいに作る必要はない」「15分で作れるものにする」と強調してください。完璧を目指すと時間が足りなくなり、テストに進めません。

ステップ5:テスト(Test)— 20〜30分

作成したプロトタイプを、他のチームや想定ユーザーに見せてフィードバックを得ます。

テストの目的は、アイデアの良し悪しを「判定」することではなく、ユーザーの反応から「学ぶ」ことです。「ここが分かりにくかった」「こういう機能があればもっと使いたい」といったフィードバックは、アイデアをさらに磨くための貴重な材料です。

テスト後は、得られたフィードバックをもとにアイデアを改善し、必要であれば問題定義のステップに戻って再定義します。この「作って試して学ぶ」サイクルこそが、デザイン思考の核心です。

ワークショップ後のフォローアップ

ワークショップで生まれたアイデアを実務に活かすために、以下のフォローアップを行いましょう。

アクションプランの策定

ワークショップの最後に、各チームが「次に何をするか」を具体的なアクションプランとして書き出します。「誰が」「いつまでに」「何をするか」を明確にすることで、ワークショップの熱量を行動に変換します。

振り返りと共有

ワークショップから1〜2週間後に振り返りセッションを設け、アクションプランの進捗を確認します。成功体験や困難を共有することで、デザイン思考の実践を継続するモメンタムを維持します。

経営層への報告

ワークショップの成果を経営層に報告することで、デザイン思考への組織的な理解と支援を得ることができます。アイデアの中から有望なものを選び、次のステップ(詳細な検証、予算確保等)につなげましょう。

よくある失敗とその対策

「アイスブレイクに時間をかけすぎる」

場の雰囲気づくりは重要ですが、アイスブレイクに30分以上かけてしまうとワーク本体の時間が圧迫されます。5〜10分程度の簡潔なアクティビティで十分です。

「批判が出てアイデアが萎縮する」

ブレインストーミングの段階で「それは無理だ」「予算がない」といった批判が出ると、参加者が萎縮してアイデアの量と質が低下します。ファシリテーターは最初にルールを明確にし、批判的な発言が出たらすぐにリダイレクトしてください。

「声の大きい人が議論を支配する」

付箋に個人で書いてから共有する「サイレントブレインストーミング」の手法を取り入れることで、全員が平等にアイデアを出せる環境を作れます。

「プロトタイプを作らずに議論だけで終わる」

時間が足りなくなると、プロトタイプのステップを省略しがちです。しかし、「手を動かして形にする」プロセスこそが、議論だけでは得られない気づきを生みます。ファシリテーターはタイムマネジメントを徹底し、必ずプロトタイプの時間を確保してください。

まとめ

デザイン思考ワークショップを成功させるポイントを改めて整理します。

事前準備では、目的とゴールの明確化、適切な問いの設計、多様なメンバーの選定、環境と道具の準備が重要です。

当日の進行では、共感→問題定義→アイデア創出→プロトタイプ→テストの5ステップを、時間配分を意識しながら進めます。特に「共感」と「プロトタイプ」のステップを省略しないことが、成果を出すための鍵です。

ワークショップ後は、アクションプランの策定と振り返りセッションで、学びを実務に接続します。

初めてワークショップを企画する方や、過去にうまくいかなかった経験がある方は、経験豊富な外部ファシリテーターの活用も検討してみてください。


一般社団法人日本デザイン思考協会では、スタンフォード大学d.school流の2時間入門コースを無償で提供しています。「まずはデザイン思考を体験してみたい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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